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「あひるときつね」
これは、スペインではよくしられているお話です。
アンダルシアのはらっぱに、お人よしのあひると、ずるくてかしこいきつねがすんでいました。あるとき、麦の種をたくさん手に入れたあひるは、のはらを秋には麦の穂でいっぱいにしようと思いつきました。しかし、たったひとりではとても広いのはらをたがやすことなどできません。そこで、あひるはきつねにこういいました。
「きつねさん、きつねさん。この大きなのはらが、麦の穂でいっぱいになったら、そのはんぶんをきつねさんにあげますから、いっしょに仕事をしませんか」
「ええ、ええ、いいですとも」
きつねはこころよく引き受けてくれました。
ところが、次の日からさっそく種をまきはじめたあひるは、きつねを見てがっかりしました。
きつねときたら、種のつまった袋にもたれて、寝そべってばかりいるのです。
あひるが問いただすと、きつねは
「すみませんあひるさん、今日はからだの具合がよくないんです」
と答えました。
しかたがないので、あひるは種をすべてひとりでまきました。
麦が芽を出したころ、あひるはきつねに、麦の芽を食べてしまう虫をいっしょにとろうといいました。
しかし、きつねは
「ええもちろん。でも、これはあひるさんの仕事ですね。わたしは、麦がすくすくのびて、いまよりももっと大変になってから、あひるさんに代わってあげますよ」
なるほど、きつねの言うとおりだと思ったあひるは、ひとりで一生懸命虫取りをしました。
初夏が来て、麦があひるの背丈ほども伸びたころ、あひるはきつねにいいました。
「さあきつねさん、こんどはきつねさんが草刈りをする番ですよ」
しかしきつねは面倒くさそうにこたえました。
「ええ、ええ、でもこれもあひるさんの仕事でしょう」
さすがにおかしいと思ったあひるは、夏のある日、友達の犬のところへ相談をしにいきました。
「そうか、では、麦の穂が実ったら、それをあつめておきなさい。そして、ぼくを呼びにくるんだ」
犬はあひるにそういいました。
秋がきて、のはらはあひるがまいた麦の穂でいっぱいになりました。
あひるは犬にいわれたとおり、麦の穂をあつめて小山のようにしておきました。そして、犬を
呼びに行きました。
その晩、きつねが麦のところへこっそりやってきました。
「しめしめ、ばかなあひるだ。なんにもしないで、みんな私のものになったぞ」
きつねがひと束とりだすと、麦の小山のおくで、なにか光っているのが見えました。
それは、ちょうど山ぶどうの実くらいの大きさでした。
「やったぞ、おまけにぶどうまで食べられるなんて」
きつねはおおよろこびでぶどうに手を伸ばしました。そのとたん!
がぶり、と犬がきつねの手にかみつきました。
「こいつは山ぶどうの実じゃない、ぼくの目だ!!」
びっくりしたきつねは、犬にさんざんかみつかれながら、逃げていきました。
犬は、麦の小山に隠れて、なまけものでずるいきつねが来るのを待っていたのでした。
悪いきつねは、いつかこらしめられるというお話。
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「スージーと天使さま」
ある町に、スージーという女の子が住んでいました。
町はクリスマス・イブです。あちこちの家からおいしい食べ物の匂いがして、玄関には大きなもみの木が置いてあります。
どこの家も、きらきらとかがやく星飾りでいっぱいでした。
スージーの家は町からすこし離れたところにありました。とてもびんぼうな家でしたから、クリスマスのごちそうどころか、明日の食べ物や洋服にもこまっていました。
家でもおいしい食べ物やきれいな星飾りを用意して、楽しいクリスマスにしようと思い、スージーは町へ手編みのマフラーを売りにいくことにしました。
町までは遠い道のりで、スージーがついた頃には教会の夕方の鐘が鳴っていました。
「あたたかいマフラーはいかがですか」
スージーは道を行く人たちに声をかけました。
町の人たちは七面鳥やろうそくやもみの木やおもちゃを買って帰りましたが、スージーのマフラーはひとつも売れませんでした。今夜はクリスマス・イブでしたから、外に出る人はいないので、マフラーはいらなかったのです。おまけにスージーはみすぼらしいなりをしていましたから、なおさら売れませんでした。
しかたがないので、スージーは何も買わずに家へ帰ることにしました。
帰り道の途中で丘を上り始めたころ、空から雪が降ってきました。
疲れていたスージーは、丘の向こうから吹く木枯らしにこごえました。
からだをぎゅっとちぢめながら上っていくと、丘の上には壊れた教会の跡がありました。
教会の屋根も壁もなくなっていて、天使さまの石の像がぼろぼろの柱といっしょに建っているのが見えました。
天使さまの像はうっすらと雪がつもっていて、羽にはつららがさがっていました。
「天使さま、寒いでしょう」
やさしい心のスージーは、天使さまの像の雪やつららを払ってあげました。
そして、売れ残ったマフラーを天使さまの像に巻いてあげました。
それでも、天使さまの像は手や足がむきだしのままで寒そうでしたので、スージーは自分のくつと手袋を天使さまの像につけてあげました。
「天使さまも、良いクリスマスをすごしてください」
スージーはにっこり笑って、はだしで雪の道を走って帰りました。
家に帰ると、スージーの手と足はすっかり冷え切って、しもやけになっていました。
おどろいたお父さんとお母さんがたずねると、スージーはこう答えました。
「マフラーが町で売れなかったの。帰り道に壊れた教会があるでしょう、あそこの天使さまがとても寒そうだったから、マフラーをあげたの。でも、天使さまの手も足もむきだしでまだ寒そうだったから、わたしのくつと手袋をあげました」
それを聞いて、お父さんとお母さんはスージーをほめました。
「おまえは立派な行いをしたのだね。きっと神様もよろこんでくださることでしょう」
そして、お父さんとお母さんはスージーを暖炉であたためてあげました。
マフラーは売れませんでしたから、スージーの家は小麦のスープを一皿飲んで、ベッドに入りました。
夜中にシャンシャンと鈴の音がするので、スージーたちは目を覚ましました。
「天使にマフラーをくれたスージー、スージーの家はどこかな、ここかな」
家のえんとつのほうからおじいさんのような声が聞こえました。
すると、暖炉にどんどんもみの木や七面鳥、おもちゃや洋服のつまった袋が落ちてきました。
スージーと家族たちが外へ出ると、ちょうどサンタクロースのおじいさんが、空へむけてトナカイを走らせているところが見えました。そして、そりといっしょにあの天使さまが夜空を飛んでいました。
天使さまは、サンタクロースのおじいさんに、マフラーをくれたやさしいスージーのことを教えてくれたのでした。